われわれ世代の責務の一つは、政府解釈を変更して行使を可能にすることだと。
いつ | 誰が | どこで | なにを | 背景 |
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1995.11 | 当選一回の安倍晋三 | 衆院外務委員会 | 「日米で共同で対処していく時、集団的自衛権について、今後、真剣に議論していかなければいけない」 | 自衛隊と米軍の一体化は加速し始めていた。1999年に周辺事態法、2001年テロ特措法、2003年イラク特措法が相次いで制定された。
1996年の橋本・クリントン会談で日米安保共同宣言が発表され、日米同盟の目的を日本の防衛だけでなく、「アジア太平洋地域の平和と安定の維持」に再定義。 2003年、小泉・ブッシュ会談では「世界の中の日米同盟」を打ち出した。 |
1999 | 安倍普三 | 新しい「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」関連法案の国会審議 | この政府見解を「私に言わせれば、極めて珍妙な新発明だ」と痛烈に皮肉った。 | その発明者は、内閣法制局になる。集団的自衛権は、現行憲法下でも行使可能と主張してきた安倍にすれば、法制局の解釈に半世紀以上も縛られ続けること自体が、おかしいというわけだ。 |
2000 | 安倍普三 | 衆院憲法調査会 | 「集団的自衛権というのは、個別的自衛権と同じように自然権。まさに憲法をつくる前からある権利と考えるベきだ」 | 政府見解の変更は、過去の国会でもたびたび論議になった。しかし、「極めて恥ずかしい政府見解」と、安倍に酷評されながらも、法制局は一貫して、見直しは憲法違反との立場をとってきた。「集団的自衛権の行使を憲法上、認めたいということであれば、憲法改正という手段を当然、取らざるを得ない」という法制局長官答弁も残っている。 |
2004.4.30 | 安倍普三 | ワシントンで講演 | 政府の解釈が限界に来ているのは確かだ | |
2005.5 | 自民党幹事長代理・安倍普三 | アメリカ | 「われわれ世代の責務の一つは、政府解釈を変更して行使を可能にすることだ」、集団的自衛権に関する憲法解釈の見直しを同盟国に約束した | |
2006.9.7 | ジェームズ・ケリー司令官 | 在日米海軍 | MDシステムを効果的に運用するには日本側が集団的自衛権を行使する必要がある | |
2006.9.29 | 安倍普三 | 所信表明演説 | いかなる場合が憲法で禁止される集団的自衛権の行使に該当するのか、個別具体的な例に即して研究する | |
2006.10 | 安倍晋三 | 参院予算委員会 | 「今の解釈で同盟関係が維持できるのか」と力説した。 | |
2006.10 | 駐日米大使・シーファー | 日本以外を狙った弾道ミサイルの迎撃は集団的自衛権の行使とする憲法解釈を「解決されなければならない重要課題だ」と講演して、見直しに期待を表明していた。 |
昨年、ミサイル連続発射に続いて地下核実験に踏み切った北朝鮮の脅威が背景にある。長距離弾道ミサイル「テポドン2号」は米国アラスカまで到達するともいわれる。 | |
2006.11下旬 | 安倍晋三 | ミサイル防衛(MD)システムに関し「憲法解釈の中で研究してみる必要がある」と表明 | シーファーの講演をうけて、 | |
2007.4 | 首相・安倍晋三 | アメリカ | 「有識者懇談会を設置した、集団的自衛権行使の具体的な研究に着手する」と、方針をブッシュ大統領に伝えた。 |
命を賭けてやると言い切っている あきらめる選択枝ははじめからない 2007.5.6 |
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解釈改憲
集団的自衛権を問う(上)
政府解釈の変更は責務
「われわれ世代の責務の一つは、政府解釈を変更して行使を可能にすることだ」
二〇〇五年五月、ポスト小泉候補に頭角を現した自民党幹事長代理の安倍普三は、訪問先の米国で講演し、集団的自衛権に関する憲法解釈の見直しを同盟国に約束した。
それから二年後、安倍は首相として初訪米し、有識者懇談会を設置して、集団的自衛権行使の具体的な研究に着手する方針をブッシュ大統領に伝えた。
集団的自衛権の行使は、戦後の歴代内閣が一貫して憲法九条違反としてきたタブーだ。しかし、安倍は「戦後レジーム(体制)からの脱却」を唱え、それを破ろうとしている。
× ×
なぜ、集団的自衛権の行使なのか。
安倍はまだ当選一回の衆院議員だった一九九五年十一月の衆院外務委員会で、問題提起していた。
「日米で共同で対処していく時、集団的自衛権について、今後、真剣に議論していかなければいけない」
ちょうどこのころから、自衛隊と米軍の一体化は加速し始めていた。
九六年の橋本・クリントン会談で日米安保共同宣言が発表され、日米同盟の目的を日本の防衛だけでなく、「アジア太平洋地域の平和と安定の維持」に再定義。
〇三年の小泉・ブッシュ会談では「世界の中の日米同盟」を打ち出した。
前後して九九年に周辺事態法、
〇一年テロ特措法、
〇三年イラク特措法が相次いで制定され、海外での自衛隊による対米支援の機会は増大した。
日米は在日米軍再編を通じ、「自衛隊と米軍の相互運用性」の向上を目指す。
日本が集団的自衛権の行使を憲法違反とすることは、こうした同盟の足かせになってきた。安倍は昨年十月の参院予算委員会で「今の解釈で同盟関係が維持できるのか」と力説した。
だが、憲法九条は日本に「自衛のための必要最小限度」の武力行使しか認めていない。集団的自衛権の行使を禁じてきたのも、海外での武力行使につながるからだ。
× ×
国連平和維持活動(PKO)協力法が制定された九二年当時は、自衛隊の海外派遣自体に反対が強く、派遣は国連の要請に基づくことを原則とした。
周辺事態法以降は、他国の武力行使と一体化しないことが海外活動の歯止めになった。イラクで自衛隊の活動が、「非戦聞地域」に限定されたのも、戦闘に巻き込まれ、米英軍などの武力行使と一体化すれば憲法違反になるからだ。
集団的自衛権の行使が可能になれば、自衛隊は「理論的には、米英軍と一緒にイラクで治安維持活動もできる」(国会関係者)ようになる。
自衛隊の活動をどこまで広げるのか。武力行使の歯止めはどうなるのか。安倍は「いかなる場合が憲法で禁止されているのか。個別具体例に即し、研究する」と繰り返すが、原則論は置き去りのままだ。
自民党が〇五年にまとめた新憲法草案も、集団的自衛権の行使は容認した。一方で、具体的な行使の在り方は安全保障基本法を定めて規定することにして、結論を先送りした。
日本の防衛の基本方針は、「専守防衛」。しかし、海外で武力行使に巻き込まれれば、これを逸脱する。半世紀以上積み上げた憲法解釈が変更されれば、自衛隊の活動は他国並みに近づくが、専守防衛の国是は大きく揺らぐことになる。
(敬称略)
武力行使歯止めどこに
集団的自衛権をめぐる従来の意法解釈
自衛権発動の3要件
憲法9条で許容されている自衛権の発動は
@わが国への急迫不正の侵害
Aこれを排除するのに他の手段がない
B必要最小限度の実力行使にとどまる
に該当する場合に限られる 集団的自衛権の行使
自衛権の行使は、わが国を防衛するための必要最小限度にとどまるべき。
集団的自衛権の行使はその範囲を超え、憲法上許されない
武力行使との一体化
わが国が直接、武力行使しなくても、他のものの武力行使への関与などから、わが国が武力行使したと法的評価を受けることがあり得る。
そのような行為は憲法9条で禁止される
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解釈改憲
集団的自衛権を問う(中)
「本当に武力行使なのか」
武器使用の拡大にらむ 「本当に武力行使なのか」‐安倍普三は首相就任前から、集団的自衛権行使に該当し、憲法違反とされたいくつかの事例に、こう疑問を唱えていた。海外での武力行使には当たらず、正当防衛に基づく武器使用だ、という主張だ。政府見解を見直し、武器使用の拡大をにらむ安倍。有識者懇談会で見直し対象に挙がる四類型を見てみた。
<@米国を狙った弾道ミサイルの迎撃>
安倍がミサイル防衛(MD)システムに関し「憲法解釈の中で研究してみる必要がある」と表明したのは、昨年十一月下旬。その一カ月ほど前、駐日米大使のシーファーが講演で、日本以外を狙った弾道ミサイルの迎撃は集団的自衛権の行使とする憲法解釈を「解決されなければならない重要課題だ」として、見直しに期待を表明していた。
昨年、ミサイル連続発射に続いて地下核実験に踏み切った北朝鮮の脅威が背景にある。長距離弾道ミサイル「テポドン2号」は米国アラスカまで到達するともいわれる。
日本上空を通過するミサイルは、国民の生命、財産に危害が及ぶのを防ぐ「警察権の行使」として、迎撃可能との意見もある。
だが政府はMD導入の閣議決定の際、当時の官房長官の福田康夫が「第三国の防衛のために用いられることはないので、集団的自衛権の問題は生じない」との談話を発表し国民に理解を求めた。
<A公海上で米艦船が攻撃され、自衛隊が反撃>
日本周辺の公海上で米艦船が攻撃を受けた場合、政府は従来、米国が日本の防衛活動中であれば、自衛艦による応戦も個別的自衛権の行使だ、と認めてきた。
一方、日本への武力攻撃がない場合や、自衛艦に危険がないケースは自衛艦が反撃すれば集団的自衛権の行使に該当するとしてきた。
しかし、防衛相の久間章生は昨年、米艦船と並走時ならば「どちらへの攻撃か峻別(しゅんべつ)できないことがある。武器等防護規定に基づいて反撃せざるを得ないのではないか」と言及。自衛隊法九五条に基づく武器使用により、応戦可能との見解を示した。
<B国連平和維持活動(PKO)中、共同活動する外国軍への攻撃に、自衛隊が駆け付けて反撃>
イラクのサマワで活動していた陸上自衛隊は、オーストラリア軍に警護されていた。しかし、豪軍が襲撃された場合は、陸自は救援できない。
これについて安倍は官房長官時代に「果たして武力行使なのか。警察的な武器使用ではないか」と指摘。自衛隊員による反撃の是非を有識者懇談会の研究対象に加えた。
ただ、海外での武器使用は、正当防衛や緊急避難時に限られ、救援対象も自分以外は「自己の管理下に入った者」に限定してきた。 最近はこうした武器の「駆け付け使用」について「憲法上、許容される余地がないとはいえない」との政府答弁もあるが、状況によっては、武器使用が本格的な戦闘行為にエスカレートする危険性はある。
<C米軍や多国籍軍への後方支援隠>
日本周辺で有事が発生した場合、日本は周辺事態法によって米軍を後方支援する。しかし、武器・弾薬の提供は「米軍の武力行使と一体化」するおそれがあるとし、周辺事態法の適用から除外された経緯がある。
久間が「米国の戦争を後方支援し、応援している」と言ったテロ対策特別措置法でも、武器・弾薬の輸送業務は除外した。
見直し対象にはこうした個別事例も含まれる見通しだ。だが、政府はこれまで「(輸送が)戦闘地域までとなると、武力行使の一体化に抵触する可能性が大いにある」と解釈してきた。=敬称略
4類型に関する従来の憲法解釈
※「」内は政府の国会答弁など
1 米国を狙った弾道ミサイルの迎撃
「第3国の防衛に用いられることはない」(2003年、MD導入決定時の福田官房長官談話)
「他国に飛行するミサイルに対処するのは考えていない」(05年、小泉首相)
2 公海上で米艦船が攻撃され、自衛隊が反撃
米国が日本防衛を目的にした行動時ならば「わが国の自衛の範囲内」で反撃可能
「わが国の自衛の目的以外の場合米艦艇を守れない」
3 PKO活動中、外国軍が攻撃された場合、自衛隊が駆け付けて反撃
攻撃者が「国または国に準ずる組織」の場合、「武力の行使となるおそれがある」
単なる犯罪集団による攻撃の場合、「憲法上は武器使用が許容される余地がないとはいえない」
4 米軍や多国籍軍への後方支援
武器・弾薬の輸送
「輸送自体は武力行使に該当せず」
↓
「非戦闘地域ならば問題ない」
「戦闘が行われているところへの供給は問題がある」
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解釈改憲
集団的自衛権を問う(下)
政府見解は極めて珍妙
法を無視 政策変更へ 権利はあるけれど、行使はできない−。これが歴代内閣の集団的自衛権に対する憲法解釈だ。
しかし、安倍普三は一九九九年、新しい「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」関連法案の国会審議で、この政府見解を「私に言わせれば、極めて珍妙な新発明だ」と痛烈に皮肉った。
その発明者は、内閣法制局になる。集団的自衛権は、現行憲法下でも行使可能と主張してきた安倍にすれば、法制局の解釈に半世紀以上も縛られ続けること自体が、おかしいというわけだ。
安倍はその理由を、翌二〇〇〇年の衆院憲法調査会で、こう説明した。
「集団的自衛権というのは、個別的自衛権と同じように自然権。まさに憲法をつくる前からある権利と考えるベきだ」
政府見解の変更は、過去の国会でもたびたび論議になった。しかし、「極めて恥ずかしい政府見解」(安倍)と酷評されながらも、法制局は一貫して、見直しは憲法違反との立場をとってきた。「集団的自衛権の行使を憲法上、認めたいということであれば、憲法改正という手段を当然、取らざるを得ない」という法制局長官答弁も残っている。
× ×
法制局の反対を押し切って、内閣が政府見解を変更した例がないわけではない。八三年、中曽根内閣は武器輸出三原則の例外として、対米武器技術供与の解禁に踏み切った。日本の武器技術提供を求める米国の意向にこたえたものだ。同盟重視の観点から、政府見解を見直した点では、集団的自衛権と同じだ。
最後まで反対した法制局を説き伏せたのは、官房長官だった後藤田正晴だった。後藤田は自著で「最後はやむなく強権発動した。これは政策の変更であって、法律解釈の問題ではない」と経緯を回顧している。 見直しを最後通告した後藤田に法制局長官の角田礼次郎は「政策の変更ならやむを得ません。そのかわり、国会答弁は全部頼みますよ」と言ったという。
結局、後藤田は官房長官談話を出して、従来の政府見解を変更。これを手土産に、首相の中曽根康弘は初訪米した。
× ×
政府の憲法解釈は変更できるのか。安倍周辺は、後藤田の例に倣い、八三年方式も視野に入れる。安倍自身は自民党幹事長代理時代に「国会決議が必要かもしれない」と指摘したこともある。
集団的自衛権に関する研究は、小泉純一郎も首相時代に言及した。しかし、小泉も憲法解釈の変更は「過去五十年余の国会での議論の積み重ねがあり、十分慎重でなければならない」ととどめた。
後藤田の見直しも、大義名分は法解釈の変更でなく、政策変更だった。
安倍は昨年十月の衆院予算委員会で「(日米同盟を)運用面から高める努力は常に必要だ」と強調した。法解釈よりも柔軟対処とも受け取れる。
安倍が唱えるように「テロへの反撃は正当防衛」と認定すれば、海外での武力行使は正当防衛であり、警察権による合法的な武器使用となり得る。
しかし、後藤田自身が「強権」と評したように政策変更という理屈には、法をないがしろにするあざとさがつきまとう。
しかも、違憲としてきた活動を合法と位置付ける点で、解釈改憲と変わりはない。であれば、改憲と同様、国民の審判を仰ぐべきテーマになる。 自衛隊の海外派遣や日米同盟強化という政策要求が、憲法の枠内に収まるよう、政府は無理に無理を重ねた解釈を積み上げてきた。しかし、集団的自衛権行使の禁止こそは、譲れない「最後の一線」(国会関係者)のはずだった。
十八日に初会合を開く有識者懇談会が、集団的自衛権をめぐる報告書をまとめるのは今秋になるがその時日本は、最後の一線を越えることになる。
=敬称略
(この企画は吉田昌平、本田英寛が担当しました)
集団的自衛権の解釈変更に対する国会答弁
「政府が政策のために憲法解釈を変更することは、憲法解釈の権威を著しく失墜させ、内閣に対する信頼を損なうおそれもある。法秩序の維持からも問題がある」
(1996年・大森内閣法制局長官)
「他国に加えられた武力攻撃を実力で阻止することを内容とする集団的自衛権の行使は、憲法上許されないとの立場に立っており、この見解を変更する考えはないというのが内閣の基本的考え方」
(99年・小渕首相)
「国権の最高機関である国会で議論をたたかわせるべき問題。一内閣でどうこうできる話ではない」
(2003年・福田官房長官)
「見解が対立する問題があれば、便宜的な解釈の変更によるものではなく、正面から憲法改正を議論することにより、解決を図ろうとするのが筋だろう」
(04年・小泉首相)