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科学的検証に疑問符
高裁の推論へ批判
名張毒ぶどう酒 再審認めず
識者「立証責任も逆転」
名張毒ぶどう酒事件の第七次再審請求差し戻し審で二十五日、名古屋高裁(下山保男裁判長)が弁護側の新証拠を退けた決定に、奥西勝死刑囚(八六)の弁護団は「独自の『推論』に基づいた決定」と強く批判している。実際、高裁は検察も主張していない理由で、奥西死刑囚の犯行は「いささかも動かず、自白も十分信用できる」と結論づけた。その根拠は何なのか。識者は「本来、検察側にあるはずの立証責任が全く逆転している」と批判する。
(名張毒ぶどう酒事件・再審請求取材班)
◆鑑 定
毒物は、奥西死刑囚が逮捕後に供述した通りニッカリンTだったのか。弁護側が注目したのは、ニッカリンT特有の副生成物「トリエチルピロホスフェート」。事件当時の鑑定で、飲み残しのぶどう酒からは出なかったが、市販ぶどう酒にニッカリンTを混ぜた比較対照用の溶液からは出た。弁護団は「毒物が違う。自白の根底が崩れた」と訴えた。検察は、事件直後の鑑定の準備段階で行われた「エ−テル抽出」という工程を経ると、副生成物は検出されないと主張した。
「日本に数台しかない」とされる最新鋭の機器を使った高裁の鑑定結果を、検察、弁護側は双方が自分に有利な解釈をした。ここで下山裁判長が登場させたのが、独自の「推論」だった。
副生成物は、ニッカリンTに含まれる毒成分「ペンタエチルトリホスフェート」が水と化学反応(加水分解)してできる。毒物鑑定は事件発生から一、二日が過ぎており、この間に加水分解した「ペンタ」が消え、「トリ」も出なかったと推測した。
◆「素人」
この論理に、弁護団は憤る。毒物を担当した野嶋真人弁護士は「素人が独自の推論で、独自の仮説を立てて結論を出した。最初から有罪ありき。犯人に間違いないとの予断を持って科学的証拠を判断した」と批判する。
今回の差し戻し審はそもそも、最高裁が「科学的知見に基づく検討をしたとはいえない」として再審理を求めた。その「宿題」には答えられたのか。
大出良知・東京経済大教授(刑訴法)は「科学的どころかエセ科学的な推論だ」と皮肉る。「推測に推測を重ねた判断で、驚愕を禁じ得ない。『検出されなかったとみる余地があると考える』などの表現は、逃げる時に書く言い方」と言う。
専門家の鈴木茂・中部大教授(環境分析化学、質量分析)も「ニッカリンTが使われたと判断するには根拠が曖昧。推論を述べ、違和感がある」と語る。
決定要旨に使われた「水系」などの表現を指し、「化学的には使わない言葉。決定は、後年の検証に耐えられる情報を残す必要がある」と指摘する。
◆証 明
決定は、独自の推論で、弁護団の新証拠は「毒物がニッカリンTでないことを示すほどの証明力はない」と退けた。「自由心証主義」を盾に、弁護側とも検察側の主張とも違う根拠で、裁判所が独自に判断することは許されないはずだ、と水谷規男・大阪大教授(刑訴法)は言う。
「弁護側がニッカリンTでなかったことを証明していないから、確定判決に合理的疑いは生じないと言っている。これでは立証責任が全く逆。本来なら検察側が毒物が間違いなくニッカリンTだったと証明しなければならない」と話す。
弁護団は決定から五日以内に最高裁に特別抗告する。審理は最高裁に移るが、水谷教授は「前回の差し戻しの趣旨からして、最高裁がこの決定を維持するとはとても思えない」と述べた。
名古屋高裁の推論
残行現場に残されたぶどう酒
副生成物の元になる毒成分(ペンタエチルトリホスフェート)
1、2日で加水分解済み
検出されず
市販のぷどう種に市販のニッカリンTを混ぜた溶液
副生成物(トリエチルピロホスフェート)
検出
検査過程で加水分解
奥西勝死刑囚との面会を終え名古屋拘置所を後にする小林修弁護士奄ニ鬼頭治雄弁護士=25日午前11時7分、名古屋市東区で
名張事件 再審認めない決定<-- 前のページ
51年前、三重県名張市でぶどう酒に農薬が入れられ、女性5人が殺害された「名張毒ぶどう酒事件」で死刑が確定した死刑囚について、名古屋高等裁判所は「新たな鑑定結果を検討しても犯行に使われた農薬が本人が持っていたものと別だったとは言えない」と判断し、再審を認めない決定をしました。「名張毒ぶどう酒事件」は昭和36年に三重県名張市の地区の懇親会でぶどう酒に農薬が入れられ、女性5人が殺害されたもので、殺人などの罪で死刑が確定した奥西勝死刑囚(86)が無実を訴えて、昭和48年から再審を求めてきました。7年前、7回目の訴えに対し名古屋高等裁判所はいったん再審を認める決定をしましたが、別の裁判官が決定を取り消し、おととし、最高裁判所が審理を差し戻す異例の経緯をたどってきました。
最高裁は有罪の根拠とされた農薬の鑑定に疑問を投げかけ、名古屋高裁では、最新の技術を使ってあらためて鑑定が行われていました。この結果、名古屋高等裁判所は、「新たな鑑定結果をみてもぶどう酒に入れられた農薬が本人が持っていた農薬と別の種類だったとは言えない。そのほかの証拠を総合的に検討してもほかに農薬を入れることができた人はいないという判断は揺らがず、再審を認める理由はない」として再審を認めない決定をしました。05月25日 10時50分