小沢一郎さん無罪判決 社説



2012.4.27初版

小沢一郎さん無罪判決 社説 2012.4.27

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翌日の各紙の社説
  ■ 中日新聞グループ ・・・特筆
  ■ 読売新聞    ・・・発狂してる
  ■ 朝日新聞    ・・・ここも
  ■ 毎日新聞    ・・・比較的穏やか
  ■ 日経新聞    ・・・問題点に重きをおこうとしいている
  ■ 産経新聞    ・・・ここも発狂している


中日新聞2012年4月27日
中日新聞 (今日の社説は二本立て、東京新聞も同じ)

小沢元代表無罪  許せぬ検察の市民誤導

2012年4月27日

 政治資金規正法違反に問われた民主党元代表小沢一郎被告は無罪だった。元秘書らとの共謀を示す調書などが排斥されたからだ。市民による検察審査会の判断を誤らせた検察の捜査こそ問題だ
 「事実に反する内容の捜査報告書を作成した上で、検察審査会に送付することがあってはならない」と裁判長は述べた。
 小沢元代表の裁判は、新しい検察審制度に基づき、市民による起訴議決を経て、強制起訴されたものだった。
 つまり、市民が判断の中核としたとみられる検察側の書類そのものが虚偽だった点を、裁判所が糾弾したわけだ。
 問題の報告書は元秘書の石川知裕衆院議員が小沢氏の関与を認めた理由の部分だ。「検事から『親分を守るためにうそをつけば選挙民を裏切ることになる』と言われたのが効いた」と石川議員は述べたという。だが、実際にはそのようなやりとりがないことが、録音記録で明らかになった。
 検察が虚偽の文書を用いて、市民を誤導したと指弾されてもやむを得まい。石川議員の供述調書も、検事の違法な威迫、誘導があり、裁判で証拠採用されなかった。取り調べ過程の全面録画(可視化)の議論は加速しよう。

 そもそも、巨額なカネはゼネコンから小沢元代表側へと渡ったという見立てで、捜査は始まった。上司から「特捜部と小沢の全面戦争だ」とハッパをかけられたという元検事の証言も法廷で出た。今回の判決でも「検事は見立てに沿う供述を得ることに力を注いでいた」と厳しく批判された。予断となった特捜検察の手法をあらためて見直さざるを得まい。

 検察審の在り方も論議を呼びそうだ。検察の大きな裁量を見直し、市民に事実上の起訴権限が与えられた新制度は評価できる。その特徴は黒白を法廷決着させたい意思だろう。一方で、強制起訴の乱用を懸念する声もある。
 今回の裁判でも、弁護側は「検察が意図的に検察審に誤った判断をさせた」と主張していた。これは検察審の悪用であり、事実なら言語道断である。市民の議論をサポートする弁護士を複数制にしたり、容疑者に弁明機会を与えるなど、改善点を模索したい。
 小沢元代表は法廷で「関心は天下国家の話。収支報告書を見たことすらない」とも語った。政治資金制度の根幹部分を改正することも急務といえよう。

中日新聞2012年4月27日

小沢元代表無罪  政争よりも政策実現を

2012年4月27日

 小沢一郎元民主党代表の無罪判決で「反小沢」と「親小沢」勢力との抗争が激化する見通しだという。しかし、国会にそんな余裕はない。国民が期待するのは、よりよい生活のための政策実現だ
 小沢氏は政治資金規正法違反の罪で強制起訴されたことを受け、二〇一一年二月、民主党員の資格停止処分を受けた。無罪判決により、民主党がこの処分を解除するか否かが、当面の焦点となる。
 小沢氏に近い輿石東幹事長は五月上旬にも処分解除に向けた手続きを始めると表明したが、党内には判決確定まで解除すべきではないとの意見がある。
 小沢氏や近い議員らは、野田佳彦首相が今国会成立に「重大な決意で臨む」と断言した消費税増税に反対している。増税派は小沢氏の足かせとなる党員資格停止が長引くほどよいと思っているのか

 権力闘争は政治に付きものであり、活力を生む面はある。しかし、大震災と原発事故後の非常時だ。不毛な政争に費やす時間があるなら、よりよい生活のための政策を一つでも多く実現してほしいというのが国民の願いに違いない。
 首相が消費税増税に突っ走れば小沢氏らとの抗争を泥沼化させかねない。消費税増税を実現しようと自民党の求めに応じて「小沢氏切り」に踏み切れば、民主党は分裂するだろう。首相はそこまでして消費税率を引き上げたいのか

 ここは政権交代の原点に返り、まずは政府や国会の無駄に徹底的にメスを入れることに再挑戦する必要がある。
 その上で、年金、医療、介護、子育てなどの社会保障制度を将来にわたって持続可能なものにするにはどうしたらよいのか、その財源をどう確保するのか。与野党が知恵を出し合ってほしい。
 今の制度が変わるのか見通せない中で消費税増税の前例だけつくられても国民は納得がいかない。

 後半国会には議論すべきことが多く残されている。歳入の四割を占める赤字国債を発行する公債特例法案は成立のめどが立たず、原子力安全委員会などに代わる原子力規制組織の設置も遅れている。
 衆院「一票の格差」是正でも与野党の意見は大きく隔たる。国会が違憲・違法状態を自ら解消できないほど劣化したのなら悲しい。
 不毛な政争を脱し、活発な議論を経て結論を出す国会へ−。小沢氏の無罪判決がそのきっかけになるのなら、まだ救いがある。

東京新聞 【 筆洗 】
  2012年4月27日
  「江戸の敵を長崎で討つ」。検察審査会に提出した捜査報告書が偽造されていた驚くべき事実に、こんな言葉が浮かぶ。検察審査会を利用し、自らは起訴を断念した政治家の命脈を絶とうとしたのではないか。そう疑われても仕方のない捜査だった
▼民主党の小沢一郎元代表にきのう、無罪判決が下された。小沢氏に道義的な責任は残るが、この裁判の敗者は誰かと考えてみた。強制起訴した検察審査会や指定弁護人ではない。法廷には姿がなかった検察組織である
▼ロッキード、リクルート事件など、政治家や高級官僚を立件した輝かしい歴史がある特捜検察も、有罪立証には綱渡りの場面があった。負の遺産は継承されず、残ったのは尊大な世直し意識だった。その姿は無謀な戦争に突き進んだ昭和の軍官僚たちの姿と重なる
▼日露戦争は革命思想が浸透したロシア国内の混乱の要因もあり、薄氷を踏む勝利だった。陸軍参謀本部が残したのは、司馬遼太郎さんが「明治後日本で発行された最大の愚書」と憤るほど都合の悪い事実を隠蔽(いんぺい)した戦史だ
▼実戦の経験のない若手将校には完勝したイメージだけが残り、その慢心は昭和の戦争で日本を破滅に導いた。二つの戦争で旗を振り続けたのは新聞だった
▼筆者は長く検察を取材してきた。特捜検察をおごり高ぶらせた責任を顧みなければならない、と自省を込めて書く。
※※ ちなみに、以下の社説はあくまでも記録ということで保存する以上の意味はない。

読売社説4月27日付

小沢氏無罪 復権の前にやることがある

読売新聞
(4月27日付・読売社説)
◆「秘書任せ」の強弁は許されない
結論はシロだが、「潔白」ではなく「灰色」という司法判断だろう。
資金管理団体・陸山会の土地取引を巡り、元秘書と共謀し政治資金収支報告書にウソの記載をしたとして政治資金規正法違反で強制起訴された民主党の小沢一郎元代表に、東京地裁が無罪を言い渡した。
土地購入原資の4億円の不記載などについて、判決は「小沢氏は元秘書から報告を受け、了承していた」と認定した。検察官役の指定弁護士が「共謀が成立する」と主張したことには「相応の根拠がある」とまで述べている。
ただし、こうした会計処理を違法であると小沢氏が認識していたことを示す立証は不十分だとして、最終的に共謀は認めなかった。有罪か無罪か、まさに紙一重の差だったことがうかがえる。
判決は、秘書だった石川知裕衆院議員らがメディアからの批判を恐れ、小沢氏提供の4億円を意図的に隠蔽した、と指摘した。
石川議員ら元秘書3人に対しては、1審・東京地裁が昨年9月、有罪判決を言い渡している。
刑事責任は認定されなかったが、小沢氏に元秘書への監督責任があるのは当然だ。政治家としての道義的責任も免れない。
◆「消費税」へ影響避けよ 
民主党の輿石幹事長は、小沢氏の党員資格停止処分を解除する手続きを取る考えを表明した。処分期間は「判決確定まで」とされている。処分解除には党常任幹事会の適切な手続きが求められる。
懸念されるのは、野田首相が「政治生命を懸ける」と明言する消費税率引き上げ問題への影響だ。
小沢氏は、増税について「その前にやるべきことがある」などと反対している。今後、野田政権を一段と揺さぶる構えで、首相は厳しい政権運営を迫られよう。
党内には、小沢氏を要職に起用する案もあるが、疑問だ。「政局至上主義」的な小沢氏の影響力拡大は、消費税問題を混乱させるだけで、良い結果を生むまい。
そもそも消費税問題は、昨年の党代表選や関連法案了承などで決着済みのはずだ。それなのに、党内の慎重・反対論が収まらず、足並みが乱れ続けている。
そのため、政権党への国民の不信が増幅していることを、小沢氏らは認識する必要がある。
◆国会で説明責任果たせ
野党は一斉に、小沢氏が国会で政治とカネの問題に関して説明することを要求している。
小沢氏は一時、衆院政治倫理審査会への出席を表明したが、「予算審議を促進するなら」との身勝手な条件や「三権分立」を持ち出し、説明責任から逃げている。まず国会での説明が欠かせない。
裁判では、政治資金の公開制度を軽んじる小沢氏の政治姿勢も、改めて浮き彫りになった。
政治資金収支報告書は国民が政治資金の流れを把握するための重要な資料だ。にもかかわらず、小沢氏は報告書の作成を「秘書任せ」にしてきたと繰り返した。
判決は、「収支報告書を一度も見たことがない」とする小沢氏の供述を「信用できない」と断じ、政治資金規正法の精神に反していると指弾している。
小沢氏のような「秘書任せ」の主張がまかり通るのは、虚偽記入などの法的責任が政治家でなく、政治団体の会計責任者にあるためだ。連座制の強化など、規正法の改正を検討すべきだ。
◆検察は捜査の猛省を
この裁判では、検察の捜査の問題点があぶり出された。
石川議員らの捜査段階の供述調書は、供述の誘導など取り調べの違法性や不当性を理由に、その大半が証拠採用されなかった。
判決も、「見立てに沿った供述の獲得に担当検事が力を注いでいた」と、「調書偏重」の検察捜査の在り方を厳しく批判した。
元厚生労働省局長が無罪となった大阪の郵便不正事件でも見られた悪弊だ。検察は猛省し、捜査の適正化を図らねばならない。
石川議員に関する虚偽の捜査報告書が作成され、検察審査会に提出されていたことも発覚した。
「審査会の判断を誤らせるようなことは決して許されない」との判決の指摘は当然だ。検察は、虚偽報告書が作成された意図や経緯を調べ、責任を追及すべきだ。
今回は、一般市民で構成される検察審査会の議決に基づく強制起訴事件としても注目された。
民主党内には検察審査会制度の見直しを求める声がある。だが、小沢氏の規正法軽視が明らかになるなど、裁判が開かれた意義は小さくない。安易な見直し論に走るべきではなかろう。
(2012年4月27日01時43分 読売新聞)

朝日新聞2012年4月27日(金)付
朝日新聞

2012年4月27日(金)付
民主党の元代表・小沢一郎被告に無罪が言い渡された。
これを受けて、小沢氏が政治の表舞台での復権をめざすのは間違いない。民主党内には待ちかねたように歓迎論が広がる。
だが、こんな動きを認めることはできない。
刑事裁判は起訴内容について、法と証拠に基づいて判断するものだ。そこで問われる責任と、政治家として負うべき責任とはおのずと違う。政治的けじめはついていない。
きのう裁かれたのは、私たちが指摘してきた「小沢問題」のほんの一部でしかない。
■「うそ」は認定された
私たちは強制起訴の前から、つまり今回の刑事責任の有無にかかわらず、小沢氏に政界引退や議員辞職を求めてきた。
「数は力」の強引な政治手法や、選挙至上主義の露骨な利益誘導などが、政権交代で期待された「新しい政治」と相いれない古い体質だったことを憂えればこそだった。
3人の秘書が有罪判決を受けたのに国会での説明を拒む態度も、「古い政治」そのものだ。
そして本人への判決が出たいま、その感はいよいよ深い。
判決は、小沢氏の政治団体の政治資金収支報告書の内容はうそだったと認めた。それでも無罪なのは、秘書が細かな報告をしなかった可能性があり、記載がうそであると認識していなかった疑いが残るからだという。
秘書らの裁判と同じく、虚偽記載が認められた事実は重い。しかも判決は、問題の土地取引の原資が小沢氏の資金であることを隠す方針は、本人も了承していたと認定した。
資金の動きを明らかにして、民主政治の健全な発展をめざすという、法の趣旨を踏みにじっているのは明らかだ。
小沢氏は法廷で、自分の関心は天下国家であり、収支報告書を見たことはないし、見る必要もないと言い切った。
■説明責任を果たせ
これに対し私たちは、政治とカネが問題になって久しいのにそんな認識でいること自体、政治家失格だと指摘した。判決も「法の精神に照らして芳しいことではない」と述べている。
まさに小沢氏の政治責任が問われている。何と答えるのか。無罪判決が出たのだからもういいだろう、では通らない。
この裁判では争点にならなかったが、秘書らに対する判決では、小沢事務所は公共工事の談合で「天の声」を発し、多額の献金や裏金を受けてきたと認定されている。
小沢氏は一度は約束した国会の政治倫理審査会に出席し、被告としてではなく、政治家として国民への説明責任を果たすべきだ。
民主党にも注文がある。
輿石東幹事長はさっそく、小沢氏の党員資格停止処分を解除する考えを示した。だが、党として急ぐべき作業は別にある。
「秘書任せ」の言い訳を許さず、報告書の内容について政治家に責任を負わせる。資金を扱う団体を一本化して、流れを見えやすくする――。
今回の事件で改めて、政治資金規正法の抜け穴を防ぐ必要性が明らかになったのに、対策は一向に進んでいない。マニフェストに盛った企業・団体献金の廃止もたなざらしのままだ。
こうした改革を怠り、旧態依然の政治の病巣の中から噴き出したのが「小沢問題」だ。これを放置する民主党の姿勢が、政治と国民との亀裂を広げていることに気づかないのか。
小沢氏の強制起訴によって、人々の視線が司法に注がれ、刑事責任の有無ですべてが決まるかのように語られてきた。
だが、判決が出たのを機に、議論を本来の舞台に戻そう。これは根の深い政治問題であり、国会で論じるべきなのだ。
それを逃れる口実に裁判が使われるようなら、検察官役の指定弁護士は、控訴にこだわる必要はないと考える。
検察審査会が求めたのは、検察官の不起訴処分で終わらせずに、法廷で黒白をつけることだった。その要請は果たされた。さらに公判で明らかになった小沢事務所の資金管理の実態などは、今後の政治改革論議に貴重な教訓を提供してくれた。
■検察は猛省し謝罪を
この裁判は、検察が抱える深刻な問題もあぶり出した。
捜査段階の供述調書の多くが不当な取り調べを理由に採用されなかったばかりか、検事が実際にはなかったやり取りを載せた捜査報告書まで作っていた。あってはならないことだ。
法務・検察は事実関係とその原因、背景の解明をいそぎ、国民に謝罪しなければならない。「検察改革」が本物かどうか、厳しい視線が注がれている。
気になるのは、小沢氏周辺から強制起訴制度の見直しを求める声が上がっていることだ。
ひとつの事例で全体の当否を論ずるのはいかにも拙速だし、政治的意図があらわな動きに賛成することはできない。

毎日新聞 2012年04月27日 02時30分

小沢元代表無罪 なお政治的責任は重い

毎日新聞
社説:
毎日新聞 2012年04月27日 02時30分
刑事責任を問えないまでも政治家としての責任を厳しく問う判決だった。民主党の小沢一郎元代表に対し、東京地裁で無罪が言い渡された。資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐり、元代表提供の4億円が政治資金収支報告書に記載されず、元秘書との共謀が問われた事件だ。地裁は、元秘書らによる報告書への虚偽記載があったと認定した。「法と証拠」に基づいて判断する刑事裁判の結論を受け止めたうえで、その内容をしっかり見極めたい。
◇検察の失態も強く批判
元秘書の衆院議員、石川知裕被告は4億円提供と同時期、なぜわざわざ同額の銀行融資を受けたのか。
判決は、目的について「提供を受けた4億円の簿外処理のため」としたうえで「元代表の個人資産から提供された事実が対外的に明らかになると取材などで追及され、元代表が政治的に不利益を被る可能性を避けるためだった」と動機を指摘した。
4億円を記載しないことについて元代表への「報告・了承」があったのかについては「秘書らは自ら判断できるはずはない」と指摘し、元代表の了承を認定した。
判決は、共謀の成立の検討について「相応の根拠がある」とも指摘した。だが、4億円の記載時期の先送りが虚偽記載になることを元代表が認識していなかった可能性などを指摘し、無罪の結論を導いた。


日経新聞2012.04.27

無罪判決を「小沢政局」につなげるな

日経新聞
「疑わしきは罰せず」を地でいく判決だろう。資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐり、政治資金規正法違反の罪で強制起訴された小沢一郎・民主党元代表に、東京地裁が無罪判決(求刑禁錮3年)を言い渡した。
判決は元秘書らによる巨額資金の簿外処理や、小沢元代表への報告・了承の事実を認定しながら、元代表本人の刑事責任は問えないと結論づけた。全体として「灰色」だが、罪に問われるような「黒」ではないということである。
強制起訴制度に課題も
無罪判決を受けて、元代表は復権に向けた動きを強めるだろう。しかし、それによる「小沢政局」の再燃で、これ以上、政治の混乱や空白を招いてはならない。
判決によると、陸山会が2004年に都内に土地を購入した際、小沢元代表が購入資金として4億円を用立てた。元秘書の石川知裕衆院議員はこれが表に出ることのないよう、同年の収支報告書に記載しないなどの工作を行った。
裁判では、こうした虚偽記入に小沢元代表がかかわっていたかどうかが争われた。判決は、関与を否定する元代表の供述は信用できないと断じたが、故意があったとまではいえないと判断した。
政治資金規正法では、収支報告書の記載・提出義務は会計責任者が負う。政治家本人の刑事責任を問うのは難しく、今回の判決で、ザル法と指摘される同法の欠陥があらためて浮かび上がっている。
今回の裁判ではまたも、検察のずさんな捜査が明るみに出た。石川議員の供述調書は「違法・不当な取り調べによるもの」として証拠採用されず、検察審査会に提出された捜査報告書には虚偽の記載があったことも発覚した。
検察審査会は、検察側の資料をよりどころに起訴すべきかどうかを判断する仕組みだ。この資料への虚偽の記載が強制起訴の有効性に疑問を抱かせたことを、検察は猛省しなければならない。
この裁判は、検察審査会による強制起訴としては2例目の判決で、1例目に続く無罪となった。市民による起訴だから、もともと無罪率の高さは想定されていたが、無罪判決が続くと制度の信頼性に疑問が持たれかねない。今後、設計を見直す必要もあろう。
検察の起訴権限行使をチェックするという理念にしたがえば、政治的配慮や身内をかばうために起訴を断念したり、社会の実態からかけ離れた法解釈をしたりするケースなどが主な対象になるのではないだろうか。
無罪判決が出たからといって、元代表の政治的・道義的な責任がなくなるわけではない。国政をつかさどる国会議員には一般人に増して高い倫理観が求められる。
政治資金は選挙活動などに使うことを前提に、普通の所得とは区分され、非課税になっている。政治資金規正法が不動産取引を禁じていないのは、利殖などの事態を想定していなかったからだ。
小沢元代表は土地の購入目的について「秘書が住む寮を建てるため」などと語ったが、他にもマンションなどを購入している。複雑な資金の流れとも合わせて、個人的な蓄財の思惑があったのではという疑念も払拭されていない。
政治資金収支報告書への虚偽記載に関しては、元秘書がすでに一審で有罪判決を受けた。元代表には監督者としての責任もある。
なお問われる政治責任
小沢元代表はネット中継などを通じて一方的に言い分を発信することはあっても、国会議員がただす場には姿をみせていない。これでは広範な理解は得られまい。元代表は一刻も早く、国会での説明責任を果たすべきだ。
政治的な疑惑を抱える議員が釈明するための場である衆参両院の政治倫理審査会の原型をつくったのは衆院議院運営委員長時代の小沢元代表だ。政倫審での弁明すら応じないのは自己矛盾だ。
民主党の輿石東幹事長は小沢元代表の党員資格停止処分を解除する手続きに入ると明言した。元代表を支持する議員グループは野田佳彦首相との対決機運を高めている。民主党内の抗争が激しくなることが予想される。
元代表は「政治改革」などの旗を立てて過去四半世紀の権力闘争を生き抜いてきた。今回も消費増税や環太平洋経済連携協定(TPP)参加への反対を掲げて野田首相追い落としに動くのだろう。
だが、いまの日本に政争に空費するための時間の余裕はない。無罪判決を新たな小沢政局の始まりにしないよう、政府・民主党は政策実現へ挙党一致で取り組む努力を払ってほしい。

産経新聞2012.4.27 03:09

小沢氏無罪判決 証人喚問で「潔白」示せ このまま復権は許されない

産経新聞
2012.4.27 03:09 (1/3ページ)[主張]
政治資金規正法違反罪で強制起訴された民主党元代表、小沢一郎被告に対し、東京地裁は無罪判決を言い渡した。だが司法上の無罪は、政治家としての潔白まで証明したわけではない。
小沢元代表は国会における証人喚問に応じ、自らに向けられた疑惑について、国民への説明責任を果たすべきだ。このまま政治的に復権することは許されない。
元代表が公判で繰り返したのは「すべて秘書に任せていた」「記憶にない」の2つにすぎない。藤村修官房長官は判決後、「小沢氏は裁判の中で説明責任を果たしてきたと思う」と語ったが、これは理解できない。
≪無実は証明されてない≫
判決で、検察官役を務めた指定弁護士の主張を大幅に認めた意味は大きい。小沢元代表が提供した4億円について元秘書らによる虚偽記載罪が成立することや、簿外処理について報告を受け、了承していたことも認定した。
元代表が収支報告書を「一度も見たことがない」と述べたことは「およそ信じられない」と指摘し、「一般的に不自然な内容で変遷がある」と批判した。最大の争点だった共謀の有無にも「共謀共同正犯が成立するとの指定弁護士の主張には相応の根拠があると考えられなくはない」と述べた。
それでも無罪となったのは「被告の故意および実行犯との共謀について証明が十分ではないため」との結語のみによる。これでは小沢元代表の弁護団が閉廷後語った「完全な無罪」にはほど遠い。
加えて判決は、会計責任者の役割について理解を欠く供述を行うなど、「政治資金規正法の精神に照らして芳しいことではない」と、元代表の政治家としての資質についても苦言を呈した。
判決を受け、野党側が小沢元代表の証人喚問など国会招致を求めたのは当然だ。元代表は裁判への影響などを理由に喚問を拒み続けてきたが、判決で潔白が証明されたというなら、堂々と国会で主張すればいい。
政治家の資金管理団体が不動産取得に大金を投じること自体に国民は違和感を覚えている。元代表の資金管理団体に政党交付金を含む旧政党の資金が迂回(うかい)して蓄積された疑惑も晴らされていない。
民主党の対応も問われる。輿石東幹事長は「裁判で結果が出た」として喚問は必要ないとの見解を示し、「党員資格停止処分」の解除に向けた手続きに入る意向も表明した。党常任幹事会が決めた処分は「判決確定まで」だったが、指定弁護士側の控訴の有無も待たず、与党の責任者が復権へ先陣を切っていることはおかしい。
小沢元代表の発言権が強まれば、野田佳彦首相が政治生命をかける消費税増税などの重要政策も影響を受けるだろう。消費税増税の頓挫は内閣の存続にかかわる。だが、それ以前に、小沢元代表が政治的・道義的責任を取ろうとしていないことが問題なのだ。これを放置する限り、民主党政権は国民の信用を取り戻せまい。
≪規正法改正で連座制を≫
検察審査会の議決を受けた強制起訴事件の判決は2件目だ。いずれも無罪判決となったものの、拙速な制度の見直し論に結びつけるべきではない。
小沢元代表の公判にも大きな意義があった。一般常識とはかけ離れた政治家の金銭感覚をあらためて浮き彫りにし、政治資金規正法の不備や、東京地検特捜部による虚偽捜査報告書の問題なども明らかにした。
政治資金規正法で直接、罪に問えるのは会計責任者らで、政治家が刑事責任を問われるのは、会計責任者との共謀が認定されるか、選任と監督の両方を怠った場合に限られる。公職選挙法のような連座制の規定もない。ザル法とも指摘されるゆえんだ。
小沢元代表は自著「日本改造計画」で、政治腐敗防止制度の確立を主張し、規正法違反者について「言い逃れを封じるために連座制も強化する」と提言している。まさか、これも「記憶にない」わけではあるまい。政治家自身が資金管理の責任を負う実効性のある規正法の見直しが必要だ。
判決は、虚偽報告書が作成された理由、経緯などについても検察庁で調査、究明するよう求めている。検察の大失策が判決に与えた可能性も否定できない。大阪地検特捜部の郵便不正事件と合わせ、検察当局には猛省を求めたい。

<-- 小沢さん裁判の記録(NHKが報道するとこうなる)
小沢一郎さん控訴審判決要旨 -->


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