事件当時、栃木県警の鑑識課に所属していた宇都宮市の鑑識鑑定士斎藤保さん(六二)は「当時の鑑定の信用性は低く、取り調べもいいかげんだったということ。見込みが先行してしまった」と疑問を投げかけた。中日新聞2009年6月5日
現場で指紋や足跡の採取を担当したが、証拠になるようなものはなかったという。
2009年6月5日
【新鑑定について】被害者の半袖下着から抽出されたDNAと菅家利和申立人の身体から採取されたDNAが同一人に由来するか否かにつき鑑定が実施され、検察側鑑定人から「検査したDNA型の多くが異なるので、同一の人に由来しない」との鑑定書が提出されている。
検察官としては、次の通り、同鑑定が刑事訴訟法に定める無罪を言い渡すべき明らかな証拠に該当することを争わない。
鑑定人が実施した鑑定においては、本件半袖下着のDNA抽出個所に精液が付着していたか否かの検査がなされていない点で問題なしとしないが、捜査 段階におけるDNA型等の鑑定(原鑑定)の際に切り取られた穴に隣接した外縁部からDNAを抽出していること、精子のDNAの抽出方法として適切な方法 (最初に精子以外の細胞成分由来のDNAを除去した上で、次に精子を溶解する溶液を用いてDNAを抽出するという二段階法)が用いられていること、それら の外縁部のうち相互に若干離れた位置にある三カ所からいずれも同一のDNAの型が検出されたこと、逆にそれらの外縁部とは相当程度離れた位置にある個所か らはDNA型が得られなかったこと、種々の調査・検討の結果によってもコンタミネーション(混入)の可能性を確認することができなかったことなどに照らす と、鑑定において本件半袖下着から抽出されたDNAが本件犯人に由来する遺留精液であった蓋然(がいぜん)性を否定することはできない。
また同鑑定にはDNA型判定の手法などの点でも特段の問題は認められない。
従って同鑑定が再審開始の要件である無罪を言い渡すべき明らかな証拠に該当する蓋然性は高いといわざるを得ない。
なお本件については弁護側鑑定人からも鑑定書が提出されているところ、鑑定人が実施した鑑定については、検査の方法などについて疑問があり、全体 的に信用性に欠けるものであることから、この点については、別途科学警察研究所の意見書とともに、即時抗告審に意見書を提出する。
【再審開始について】以上の通り、検察側鑑定人による鑑定は刑訴法に定める無罪を言い渡すべき明らかな証拠に該当する蓋然性が高いので、本件再審の開始については、裁判所において、しかるべく決定されたい。
追って、申立人の刑の執行を停止するのが妥当と判断し、本日、宇都宮地検において刑訴法に基づき、申立人の刑の執行を停止する手続きを取ることにするので、その旨申し添える。
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足利事件で菅家利和さんの再審開始が決定的となり、他の再審請求事件を担当している弁護士らは、一様に喜びの声を上げるとともに、捜査当局の取り調べを批判した。
静岡県清水市(現静岡市)で起きた袴田事件の再審を求めている小川秀世弁護士は「大変画期的なこと。弁護団の努力が実り、本当によかった」と声を上げて喜んだ。
「無実の人がなぜ自白するのかという心理的メカニズムを理解できていない裁判官がいまだにいる。同じことを繰り返してはいけない。再審では、どのような取り調べが行われたのかを明らかにしてほしい」と願った。
埼玉県の狭山事件再審弁護団の中山武敏主任弁護人も「他の事件で再審を求めている関係者を力づける」とした上で、「狭山事件でもさまざまな鑑定書 を出しているが書面審理だけ。他の事件もきちんと事実調べをすべきだ。取り調べの可視化で完全に録音・録画されれば、足利事件のようなことは起きない」と 捜査側を批判した。
十二人の被告全員が無罪となった鹿児島県志布志市の選挙違反事件で、取り調べ中に親族の名前を書いた紙を踏まされた川畑幸夫さんは「密室でガンガ ン調べられると、頭が変になりそうになる。取り調べの一部可視化が行われているが、都合のいい部分だけ調書を採られたら犯人が作られる」と話した。
富山県警に強姦(ごうかん)などの疑いで誤認逮捕され約二年間服役後、再審で無罪が確定した柳原浩さんは「当時のDNA鑑定は精密ではないのに、 信じ込んだ警察が悪い」と批判。その上で「確かと思われた物証でも覆ることがある。それに、なぜ自白してしまったのか。私のときと同様に、取り調べで強制 があったのではないか。早く取り調べの全面的な可視化を実現すべきだ」と話した。
日本で初めて犯罪捜査にDNA型鑑定を取り入れた石山〓夫・帝京大名誉教授(法医学)は「事件当時の鑑定がずさんだったのではないか。技術と経験 を持った人が鑑定したのではなく、ジェット機の運転を素人がやったようなものだ。こういうことが起こると以前から思っていた。釈放は当たり前のことだ」と 指摘した。
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内容紹介 ◎ジャーナリスト 大谷昭宏氏推薦 白バイは“黒バイ”か 地方局記者が執念で迫る 「これです」 被告の支援者が数枚の写真を取り出した。 路面には黒々とした二本の筋。 裁判で有罪の決め手となった、スクールバスの「ブレーキ痕」だ。 「このブレーキ痕は、警察が捏造した疑いがあります。これは冤罪ではありません。警察組織の犯罪です」 ――二〇〇六年三月三日午後二時半頃、高知県旧春野町(現高知市)の国道五六号で、高知県警の白バイと遠足中のスクールバスが衝突し、白バイ隊員(二十六)が死亡。 バスの運転手、片岡晴彦さん(五十二)は現行犯逮捕された。 同年十二月には業務上過失致死罪で起訴され、翌二〇〇七年六月には禁固一年四カ月の実刑判決が高知地裁で下された。 その後、高松高裁、最高裁と判決は覆らず、二〇〇八年十月、片岡さんは獄中の人となった。 香川県と岡山県を放送エリアとする地方テレビ局「KSB瀬戸内海放送」。 同局の報道記者である著者のもとに突然、見知らぬ男性から電話が掛かってきた。 男性は、「この裁判は作られたものだ」と訴えた。 事件が発生した高知県のマスコミは、どこも耳を貸してくれない。 藁をもすがる思いで、かすかなつてを頼って県外の地方局の記者に連絡してきたのだ。 この一本の電話をきっかけに片道三時間半、著者の高知通いの日々が始まった。 法廷の場で結審されたとはいえ、不可解な点が多々ある高知「白バイ衝突死」事故。 本事件の闇を徹底的に追った渾身のルポルタージュ! ◎テレビ朝日『報道発 ドキュメンタリ宣言』の放送で大反響! |